林原美術館 HAYASHIBARA
MUSEUM OF
ART

コレクション

収蔵品

Collection overview

林原美術館は林原一郎氏が蒐集した絵画や工芸品と、旧岡山藩主池田家の大名調度品から成り立っています。 企画展または特別展において、収蔵品を順次入れ替えて展示しています。

収蔵品件数
刀剣・甲冑・絵画・書跡・能面・能装束・陶磁・金工・漆工品等、約9,000件を所蔵しています。
能面
のうめん こおもて めい しゅんぞう 能面 小面 銘 春像

 池田家に伝来する能面には、独自の固有名称(銘)がつけられているものがあり、本小面には「春像」との銘がある。正徳4年(1714)に記された、池田家の能面目録である「御面控」(当館所蔵)には春像の由緒が次のように紹介されている。
  本面杢所持 
  一、小面 春像、出目杢之介写、宝永二乙酉年於江戸被仰付、六月廿一日御国江到来、御面裏ニ御判形金粉ニテ春像ト銘。
 つまりこの春像は、出目杢之介が所持していた本面を同人が写したもので、宝永2年(1705)年に江戸で藩主の池田綱政から制作を仰せ付けられ、6月21日に岡山へ到着したものである。御面の裏には池田綱政の御判形と金粉で「春像」という銘があると記されているが、これはこの面の現状と完全に一致している。そのため春像は、池田綱政が愛用した小面の一つといえる。また岡山藩主の日々の記録を記した「日次記」(池田家文庫所蔵)などの関連史料によれば、この「小面 春像」は宝永5年(1708)10月5日に、池田綱政が、柳沢吉保邸で徳川綱吉が能を所望した際に「野宮」を演じるため着用した面でもある。

作者
出目杢之介
日本
制作年/時代
宝永2年(1705)江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦21.1 横13.6
のうめん ほうぞう 能面 宝増

 能で若い女性に使用する面のうち、この増または増女といわれるタイプはもっとも品位のある表情を示し、天女や女神に用いられることが多い。室町初期の田楽の名手である増阿弥が創作したことから増女の名がついた。女面の分類を、髪のおくれ毛の描きかたで行うことがあるが、増女は本面のように上から二本・三本・三本にわけて描くことで区別される。
 この面は総体には地味な表現だが古格を示し、補修のあとが随所に見られることから、かなり使用された形跡がうかがえる。「御面控」では「御召女面」に分類されており、2代岡山藩主の池田綱政(1638~1714)愛用の面であった。銘の「宝増」とは、「御面控」に記された「宝来作」との伝承によると考えられるが、時代的には江戸時代前期頃と推定される。

日本
制作年/時代
江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦20.5 横13.6
のうめん はんにゃ 能面 般若

 女性が嫉妬から怨霊となる話はいくつか能に取り入れられている。その激しさの表現にもっとふさわしい面が般若である。室町中、末期に出た般若坊という作家の創作なので、この名がついたと言われる。頭に二本の角を生やし、口を広く裂いて歯牙をあらわにし、その上歯と眼に大きく金銅版を嵌める。いかにも獣性を示す蛇の類にくらべて、どこか人間性を感じさせる微妙な表現を示す般若は、能面の優れた創作性を代表するものの一つであろう。
 面裏に「天下一河内」の焼印があり、「御面控」では「御召女面」に属する池田綱政愛用の面である。

作者
河内大掾家重
日本
制作年/時代
江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦24.0 横17.1
のうめん じゅうろく 能面 十六

 元暦元年(1184)、一谷の戦いで一六歳の短い生涯を閉じた平敦盛の貌である。元来が二番目修羅能の「敦盛」と「生田敦盛」のための専用面であるが、たまたま「経政」や「朝長」などとも年齢的に同じであるため、これを用いる。つまり少年の公達をあらわすが、本面は通常の「十六」に比べ高眉ではない凛々しく太い眉や切れ長の眼など、やや年齢を上げたかのような描写を見せる。
 面裏の額部分に「半」の朱書があり、明治28年に記された「御能面作者名寄」(池田家文庫)では、この朱書を作者名の一部として考え、俗名を「半蔵」という大野出目家第6代甫閑の作として分類している。

作者
出目甫閑
日本
材質/形状
木造・彩色
のうめん ちゅうじょう 能面 中将

 在五中将といわれた在原業平を念頭に創作された面と考えられている。青年の顔貌ながら二重瞼となり、下歯をあらわさない。独特の愁いを含んだ表情が、いかにも平家の公達らしい趣を漂わせる。歯にお歯黒を塗り、墨眉で高眉を描いているのは、当時の貴族が女性化した化粧をしていたためであり、結果として面全体の工作も女面と共通するものが多い。貴族や天皇の亡霊の役、また「清経」・「忠度」などの平家の公達の亡霊に使用される。
 「御面控」にも中将の記載は複数あるが、本面と確定するまでにはいたっていない。

日本
制作年/時代
江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦20.2 横13.3
のうめん かわず めい ふじがえる 能面 蛙 銘 藤蛙

 能面の一種である蛙は、河津とも書き、痩男に類する面である。「三途の川の川途と也」という説もあるくらいで、額の乱れ毛などは水に濡れた感じをあらわす。本面の銘「藤蛙」は、能の演目である「藤戸」専用の「蛙」との意味だと考えられる。表面は暗い肌色に彩色し、隈に朱をさす。瞳は環状に金泥で描いている。
 面を納める面箪笥には半蔵とあることから、出目甫閑の作と考えられ、「御面控」では「御召男面」(藩主の着用する男面)に属し「御好」とあることから、池田綱政が好んだ面であることがわかる。

作者
出目甫閑
日本
制作年/時代
江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦20.1 横14.5
のうめん ちょうれいべしみ 能面 長霊癋見

 平安京の怪盗である熊坂長範を扱った「熊坂」などに用いられる面。“長霊”とはこのタイプを創作した作者の名とされるが、その人物については詳らかでない。創作の段階では、おそらく大癋見の誇張した表情を弱めることにより、大癋見の有する一種の滑稽味を除いたのであろう。それが実在した盗賊らしい生々しさを表現している。
 本面は逆立てた眉や、濃く描かれたひげが目立ち、厳しい表情をしている。額中央には鉢巻き留めの小さい釘が打たれている。
 面裏に「ちやうれい」の朱書と、近世の名匠の一人とされる「天下一近江」の焼印があり、「御面控」では「御次男面」に記載されている。

作者
児玉満昌
日本
制作年/時代
江戸時代
材質/形状
木造・彩色
法量
縦21.1 横16.2